私は弱い人間です。
そんな風に認めることができたら、私はあの時幸せになることができたのかもしれない。でも、そんなことはできなくて、どうにか頑張ろうとしてしまった。
そんな私は1人で生きていくと決めたのです。
大切な人が1人、2人と消えていった。周りは私のことなんて何も心配してくれない。
そんな状況だったから、1人で生きていくと決めたんです。でも、あの頃と今とじゃ少し違うような気がする。
今は逆に1人では生きていけない。
そんな弱い人間でだと認めることができたような気がする。
人間って1人じゃんかよ、と思ったんだ
私の父親は大学生の時に死んでしまった。そこからです。
私の人生が大きく狂い始めたのは。亡くなった直後は「1人で生きていくと決めた」なんて覚悟はまるでなかった。
でも、亡くなってからしばらくすると、「1人じゃんかよ、結局」と思うようになったんです。
父は数億の借金を残して死んでしまった。どこかのアニメみたいだけど、本当の話です。
「この会社はどうなってしまうのだろうか?」と心配そうな顔をする社員。
「どうなるのかねぇ」と未来の不幸を願うかのような話をしている取引先。
そんな人たちがいた。その中で、私は喪主でもないのに、終わりのスピーチをした。
葬儀が終わると、話しかけて来る人たちがたくさんいた。
母と私のもとへ来て言う。「いやぁ、突然のことで…旦那様にはお世話になりました。奥様大丈夫ですか?」と声をかけるのです。
そして必ず、必ずです。二言目には「息子さんは頑張るんだよ。家族を支えるんだよ」と言われた。
なぜだろう。同じ人間なのに、扱いが違う。
親戚も、親の知り合いも、誰もが「私」ではなく、母の心配をしたのです。
そりゃわかるよ。心配するだろうよ。でも、私の存在は他人にとってはなんて軽いものなのだろうか、と思った。
腕に止まった「蚊」を殺す時が無感情であるように、私への扱いも無感情だった。
心に寒い風が吹いたような気がした。
私だってつらかった。たしかに父親が亡くなった頃には「最近強くなったな」とは思っていた。
でも、やっぱりつらくて、孤独で、漠然とした悲しみがあった。

そんな時に思ったんです。1人で生きていくと決めた、とね。
人間は1人だと思った。偉そうにしている大人も、どこかの起業家も、議員も、肩書きの割に大したことを言わない。
人の感情なんてわからない。わかってくれない。
そう思ったんです。
関連記事:生きるのが面白くないのは刺激のない毎日を送っているから。
私を助けてくれる人は誰もいなかった
父が亡くなってからは父がやっていた会社を手伝っていました。
複数の会社がありましたが、そのうち1つの会社は私が全て1人でこなすように言われた。
当時の給与は「7万円」です。
月曜日から日曜日まで休まず働き、7万円。そんな生活でした。
「華の大学生活」みたいなものは1mmもなくて、ただ目の前の仕事をこなし、疲弊していく毎日だった。
誰も助けてくれない。社員も、母親も、たすけてくれなかった。
父が亡くなったこともつらかったけど、母親の相談に乗ったり、借金の返済や会社分割について考えるのもつらかった。
そんな私はよく「ちょっと出てきます」と言って、当時オフィスのあった赤坂にある「文教堂書店」に避難していた。

この付近ですね。ここは「かおたん」という有名な中華の近くで、その隣の隣くらいかな。
1人で生きていくと決めたんだ、と思いながら、ぶつぶつ文句を言って、本屋に入る。

この文教堂書店ですね。ここさ、読売広告社とか博報堂の人だけ割引されるのよね。笑
懐かしいな。
本屋にいる時だけは、「何者でもない自分」と出会えたような気がして、少しだけ心が楽になった。
「経営者としての自分」や「有能な自分」を評価してくれる人はたくさんいた。
でも、そんなものはどうでもよかった。中身のないコンビニ袋みたいに、どこかに捨ててやりたかった。
誰も助けてくれない状況の中、やっぱり1人で生きていくと決めた。
1人で生きていくことができれば、
- 誰かに頼ろう
- 話を聞いてもらおう
- 支えてもらおう
なんてことは思わなくなる。その方が心は楽だった。
傷つかない。自己防衛だったんですよね、きっと。
本当に誰も助けてくれないと、やっぱりそうなるよ。人間は。
だって本当は強い人間なんていないから。涙を流さない人間なんていない。
あの当時のことを思い出すと、やっぱり今でも「つらかったな」と思うものです。
でも、昔を思い出して、当時のオフィスとか、見に行ってみるのもありだなあ……。
関連記事:正直に生きるとつらいこともあるけど、私はまっすぐでありたい。
でも、いまは違うんだ
1人で生きていくと決めた私も、何年か経ち、少しだけ会社の方も落ち着いてきた。
父を失った悲しみは消えない。でも、それでも生きてきた。

大学生の頃から仕事をするなんて思っていなかったし、わけがわからない人生だったけど、それでも生きたわけですよ。
で、余裕が出てきたら、昔から仲の良かった友人にも会ってみたんですよ。
ずっと誘ってくれていたけど、全然会えなかったんですよね。忙しくて。
でも、ある時、「熱海に行こうぜ!」なんて誘われたから行ってみたんです。母親は「熱海に行く」なんて言うと、「何か事故に巻き込まれたらどうしよう」と心配をするので、
母親には内緒で熱海に向かったんですよね……。懐かしい。
そしたら1人で生きていくと決めたのに、周りの人たちが優しくて、大切にしてくれて、1人で泣きそうになった。
ただ熱海を楽しむためだけに来たのに、なぜだろう、涙が出て来たのです。
「こんなにも素敵な人たちに囲まれて生きてきたのか」と思うと、嬉しくなった。1人で生きていこうと決めたけど、
別に1人で生きていく必要はないんです。
あの頃はただただボロボロになるだけで、私は何も気がつかなかった。でも、やっと周りの人たちの優しさとかに気が付いた。
そしたら、私の心を覆っていた殻が「パリパリ」と音を立てるように割れていったのです。
人って良いものですよ。
悲しくて、孤独で、1人で生きた方がマシだ、と思った夜もあった。でも、私は1人では生きていけないし、誰かに支えてもらわないと生きていくことができないのです。
そう思えたのは周りの素敵な人たちだった。
今なら言える。私は弱い人間です、と。
関連記事:人に優しくする人間も美しいな、と思った。